徳永・松崎・斉藤法律事務所

株主提案権を侵害されたという株主の会社ないし取締役に対する損害賠償請求に一部理由があるとした原判決が控訴審において全部理由がないとして取り消された事例
(東京高裁平成27年5月19日判決 HOYA株主提案権侵害控訴事件)

2016年04月15日更新

  1.  はじめに
    今回は,株主提案権の権利濫用が問題となった事案をご紹介させていただきます(同じ事案の仮処分については第75号にてご紹介させていただきました)。
    株主提案権の権利濫用については,現在,学者や実務家・法務省担当者による「会社法研究会」(座長:神田秀樹東京大学教授)において,将来的な法改正に向けて議論が行われているほか,先日,法務省から「株主提案権の在り方に関する会社法上の論点の調査研究業務報告書」が公表されるなど,活発な議論が行われております。
    本件は,総会対応との関係で,株主から提案された議案の取扱いにつき法的判断を行った事例として,一定の意義があるものと解されますので,是非頭の片隅にとどめていただけますと幸いです。
  2.  事案の概要
    Yの株主であるXが,Yの71期~73期株主総会において,①提案した議案が招集通知に記載されなかった,②議案の削減が強制され,かつ,削減後の議案の一部が招集通知に記載されなかった,③議案の内容が改変されて招集通知に記載されたことによって,Xの株主提案権が侵害されXに損害が発生したと主張して,Yのほか,問題となった各総会に関係するYの取締役あるいは執行役に対し,損害賠償を請求しました。
    原判決は,72期株主総会につき請求を一部認容したため,Yらが控訴しました。
  3.  裁判所の判断
    本判決は,原判決を覆し,Xの各総会についての請求を全て棄却(Xの株主提案権の侵害を認めない旨判断)しました。争点は多岐にわたりますが,原判決と本判決で判断が分かれた,「Xの株主提案権の行使が権利濫用にあたるか」という点に絞って判断の要旨を抜粋させていただきます。

    1.  原判決
      Xは72期株主総会において114個の議案を提案した点につき,提案5日前にXがツイッターに「株主提案の個数のギネスブック記録っていくつかどなたか知っていますか?問い合わせ方法を誰か,知ってたら教えてください」と投稿したことに照らしても,ただちにXが売名目的で株主提案権を行使していたとは認められず,自己顕示欲や個人的な怨恨を晴らす目的で行使されたとは認められないとして,権利濫用に該当しないと判断しました。
    2.  本判決
      本判決は,以下のように判断した上で,Xの72期株主総会における株主提案権の行使について,権利濫用と判断し,当該行使に対するYらの対応は不法行為にあたらないとして,Xによる請求は認められないと判断しました。

      1.  Xは71期株主総会より前に株主提案権を行使したことはなく,71期での提案内容は,取締役の解任議案であり,当該取締役がXのYでの新規事業開発に関する調査結果を採用しなかったことと無縁ではない
      2.  72期株主総会での提案については,実父との確執を原因として実父の兄でYの相談役であるZに向けていたところ,進展がないため,株主提案権の行使を利用して追及する意図が含まれていた
      3.  114個も提案したことは,ツイッターの投稿内容からしても,Yを困惑させる目的があったとみざるをえない
      4.  XはYからの要請に従い,提案を20個まで削減したが,その中にはZを直接対象とするものが含まれ,Xが最後までかかる提案を固執したことからすれば,72期株主総会の提案は,全体として株主としての正当な目的を有するものではなく,株主総会の活性化を図ることを目的とする株主提案権の趣旨に反するものである
  4.  検討・実務への影響
    原判決と本判決の両社の判断が分かれた理由としては,Xと実父との個人的な確執がXの株主提案権の行使の原因となっているという,行使の背景事情に関する事実を認定したかどうかが大きいものと解されます。また,同じツイッターの投稿について,異なる評価がなされている点も特徴的です。
    本判決は一般化が困難な事例的判断ではありますが,株主提案権が権利濫用に該当する旨判断した事例として,実務上参考になるものと思われます。本判決については,上告及び上告受理申立てがなされており,最高裁の判断が待たれます。

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