徳永・松崎・斉藤法律事務所

取締役との利益相反取引該当性の判断

2016年12月26日更新

  1.  はじめに
    「当社の社外取締役甲が代表を務めるA社との取引を検討しているのですが,その取引内容は妥当な内容となっており当社に損害が生じる恐れはないのですが利益相反取引に該当しますでしょうか。」といった趣旨のご質問をお受けすることが少なくありません。利益相反取引該当性については誤解されることが少なくありませんので,改めて会社法上の利益相反取引について確認したいと思います。
  2.  利益相反取引に関する会社法上の規制
    取締役との利益相反取引については,会社法上,事前に取締役会の承認を受けなければならず(会社法365条1項,356条1項2号・3号),利益相反取引を行った取締役は,当該取引後,遅滞なく重要な事実を取締役会に報告しなければならないとされています(会社法365条2項)。この規制の対象となる利益相反取引は,取引の相手が取締役である直接取引(会社法356条1項2号)と取引の相手方が取締役以外の者である間接取引(会社法356条1項3号)の2つの類型があります。
    この規制は株主の利益のためのものであるため,その全株式を有する株主との取引(最判昭和45.8.20民集24.9.1305)や株主全員の同意がある場合の取引(最判昭和49.9.26民集28.6.1306)にはこの規制は及びません。
  3.  取締役会の承認が必要な直接取引
    1.  取締役が取引の相手となる直接取引に該当する場合でも「抽象的にみて会社に損害が生じ得ない取引」や「定型的取引(取引の相手方が誰であっても同一の条件で行われる取引)」については,利益相反取引規制の対象外となり,取締役会の承認・取締役会への報告は必要ないと解されています。
      したがって,①取締役が会社に対して無償贈与をする場合(大判昭和13.9.28民集17.1895),②取締役による債務の履行(大判大正9.2.20民録26.184,③取締役による無担保・無利息の貸付(最二昭和38.12.6民集17.12.1664,最一昭和50.12.25金法780.33),④電力供給・運送・保険・預金契約等の普通取引約款による定型的取引(東京地裁昭和57.2.24判タ474.138),⑤取締役が一般顧客として自社商品を購入する取引等であれば,形式的には直接取引であっても会社法の規制は及ばないということになります。
      実務上注意していただきたいのは,会社法の規制が及ぶがどうかは,当該取引が「抽象的に損害が生じない取引」や「定型的取引」に該当するかどうかで判断されるのであって,当該取引の内容が妥当かどうかで判断されるものではないということです。妥当な取引であっても,「抽象的に損害が生じない取引」や「定型的取引」に該当しない限り取締役会の承認・取締役会への事後の報告が必要となり,妥当な取引であることは取締役会が当該取引を承認する際の判断資料になるにすぎないということです。
    2.  このため,取締役会規程において寄付金の取締役会付議基準を1000万円と定めていた会社において,取締役が代表を務める会社・団体に30万円寄付することを検討した場合,寄付金の付議基準を下回る極めて低額な寄付であると評価できますが,「抽象的に損害が生じない取引」や「定型的取引」に該当しない以上,利益相反取引の規制が及び取締役会の承認が必要ということになります。
  4.  取締役の承認が必要な間接取引
    会社法の規制が及ぶ間接取引は,会社と取締役との利益が相反する取引であり,直接取引と同程度に会社に損害をもたらす危険性がある取引を意味すると理解されています。具体的には,①会社が取締役の債務を保証する取引(最一昭和45.3.12判時591.88),②会社が取締役の債務を引き受ける取引(最大昭和43.12.25民集22.13.3511),③取締役の債務について会社が担保を提供する取引(東京地裁昭和50.9.11金法785.36)が該当します。
    なお,間接取引の範囲については,取締役個人のみならず,取締役が役職員を兼務する別の会社や,大株主として実質的な決定権を有している別会社も含まれると解釈する考え方が有力になっていますので,このような場合には念のため取締役会の承認をとっておいた方が無難だと思われます。
  5.  まとめ
    利益相反取引に該当するかどうかは簡単なようで実際の判断には悩みが生じることが少なくないようです。取締役会の承認が必要であるにもかかわらず,うっかり承認を得なかったという事態を回避するためにも,少しでも悩まれる取引がありましたらご遠慮なくご相談ください。

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