徳永・松崎・斉藤法律事務所

株主総会資料の電子提供制度への対応

2022年02月21日更新

池田 早織 弁護士

  1.  昨年の定時株主総会は,3月に施行された改正会社法への対応が必要であったほか,6月に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」を踏まえた総会運営の検討など,対応に苦慮されたことと思います。
     本年の定時株主総会では,これらの対応に加え,本年9月1日に施行される株主総会資料の電子提供制度への対応を検討する必要があります。
    1. 株主総会資料の電子提供制度への対応
      1.  制度の概要
        株主総会資料を自社のWEBサイトに掲載し,株主に対し,当該WEBサイトのアドレス等を招集通知に記載等して通知した場合には,株主の個別の承諾を得ていなくても,株主総会資料を適法に提供したものとする制度(会社法325条の2以下)です。
        ただし,株主は,会社に対し,株主総会の基準日までに,電子提供措置の対象となる事項を記載した書面を交付するよう請求することができるとされています(書面交付請求,会社法325条の5)。
        電子提供措置の対象となる事項は以下のとおりです。
        1.  招集通知の記載事項(株主総会の日時,場所,目的事項等)
        2.  議決権行使書面に記載すべき事項
        3.  参考書類の内容
        4.  株主提案に係る議案の要領
        5.  計算書類および事業報告の内容
        6.  連結計算書類の内容
        7.  電子提供措置事項を修正した旨及び修正前の事項
      2.  上場会社に対する利用義務付け
        振替株式発行会社(上場会社)は,電子提供制度の利用が義務付けられることになっています。すなわち,振替株式発行会社は電子提供措置をとる旨を定款で定めなければならないとされ(振替法159条の2第1項),施行日をもって電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款変更の決議をしたものとみなすこととされています(整備法10条2項)。
      3.  施行日
        電子提供制度の施行日は本年9月1日です。
        なお,上場会社は,施行日をもって,電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款変更決議をしたものとみなされますが,経過措置(施行日から6カ月以内に開催される株主総会については,その招集手続はなお従前の例による)が設けられているため,実際に電子提供措置を実施するのは2023年3月総会からとなります。
      4.  本年総会における対応の検討 
        電子提供制度を利用する場合,電子提供措置をとる旨の定款の定めを置く必要がありますので(会社法325条の2),施行日前の本年総会において定款変更決議を行うか否かを検討する必要があります。
        定款変更の内容として,以下のものが挙げられます。
        1.  電子提供措置をとる旨の定めの新設
        2.  書面交付請求があった場合に交付すべき書面について,法務省令に定めるものの全部または一部を記載しないこととする場合の定めの新設
        3.  WEB開示によるみなし提供制度に関する規定の削除
        4.  定款変更の効力発生時期等に関する附則
        5. (*定款及び定款変更議案の記載例:「株主総会資料の電子提供制度に係る定款モデルの改正について」(2021年10月22日全国株懇連合会理事会決定)参照)。

        なお,上場会社は,[i]について,みなし定款変更が適用されますので,株主総会で定款変更の決議をすることは必須ではありません。しかし,[ii]について,みなし定款変更の適用はありませんので,書面交付請求をした株主に対して交付する書面について,記載を省略するためには,株主総会決議による定款変更が必要となります。

      以上のように,特に上場会社については,来年3月総会から電子提供制度の利用が義務付けられますので,本年総会において定款変更決議を行うか否かについて十分な検討が必要です。

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