徳永・松崎・斉藤法律事務所

セクハラ防止について(東京地裁平成26年3月11日判決)

2014年07月30日更新

家永 由佳里 弁護士

  1.  今一度セクハラ防止について考える契機を
    セクシャル・ハラスメント(セクハラ)が社会問題となって随分と長い年月が経ち,今では誰でも「セクハラ」という言葉の意味を知っている時代となりました。しかしながら,セクハラ事件が減少しているか,と問われれば,そうではないと答えざるを得ません。
    今回は,今一度,セクハラ防止について考えてみたいということで,最近セクハラが問題となった国賠請求事件をご紹介します。なお,本訴訟の論点は多岐にわたりますが,セクハラに絞って検討したいと思います。
  2.  事案の概要
    公務員である原告が,平成21年3月28日から同4月5日まで海外出張した際,同行した部下女性職員に対し,セクハラに該当する行為をしたとして訓告を受けたことについて,訓告原因が不存在であり,訓告手続きに違法性があったなどと主張して,同訓告とそれに伴う違法な人事異動により損害を受けたとして,被告(国)に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償等の支払いを求めた。
  3.  結論及び判示
    1.  結論
      原告の請求は棄却。
    2.  判示
      職員は,その責務として,職員が認識すべき事項の指針に基づいて,セクハラをしないように注意しなければならず,また,職員は,監督者(係長級以上)の責務として,良好な勤務環境を確保するため,日常の執務を通じた指導等によりセクハラの防止及び排除に努めるとともに,セクハラに起因する問題が生じた場合には,迅速かつ適切な対応をとらなければならない。
      本件海外出張が,部下である女性職員との2名での海外出張であることからすれば,原告は,不用意な言動は慎むべきであったにもかかわらず,本件各行為に及んだものであり,原告の行為によって,女性職員は不快の念を抱き,帰国後の業務遂行に支障が生じる状況が発生しており,これは監督者である原告自らが,セクハラとなり得る言動を行うことによって勤務環境を害したものであって,かかる行為は監督者の行為として不適切なものである。
      よって,原告を訓告としたことに違法性はない。
  4.  認められた事実(具体的行為)
    他にも女性職員が挙げた行為はありましたが,人事部からのヒアリングの結果認められた行為は次のとおりであり,これを裁判所も認めています。

    1.  原告が女性職員にアルコールを勧め,女性職員はこれを断れず少し飲酒したが,手のひらが赤くなっていたので「もうこれ以上飲めません。手も熱くなってきましたので。」と答えたところ,原告が女性職員の手を触った。
    2.  原告が女性職員の過去の恋愛話(大学生のときは異性と付き合っていたのか,どんな人だったのか等),さらに好きなタイプを聞き,原告に自分はどうかと質問した。
    3.  帰りの空港で原告が「Aさん,ちょっと話をしましょう。」「1分でいいから話をしたい。」「最後に私の話を聞いてください。」と言ったため,女性職員は「あなたが上司でなければ警察に通報していました。」と言ったところ,「許してくれませんか。」「ダメですか。」「もう我々一緒に仕事ができませんね。」「話がダメならメールしますので読んでください。」「最後にこれだけは言わせてください。」「私はこの出張中に,愛してはいけない人を愛してしまいました。すみません。」と言った。
  5. まとめ
    1.  個人としての心得(セクハラにあたる行為をしない)
      ①は相手の意に反する身体的接触行為であり,省内の指針に該当し,セクハラとなり得る行為であるとされています。また,②及び③については,性的な内容の発言をしたり,性的な関係を強要したものではないが,性的な関心のもとから発せられた言動と認められ,これを女性職員が不快に感じていることからすれば,セクハラとなり得る言動であると認定されています。
      以上からすれば,身体的接触行為はまずセクハラに当たるので絶対に避けるべきです。また,性的な内容を含む発言ではなくても,「性的な関心のもとから発せられた言動」はセクハラとなり得ますので慎むべきです。
    2.  調査する側の心得
      本件における事実調査は,海外出張からの帰国翌日に女性職員からセクハラの訴えを受け,人事部が,女性職員からはメールを含む7回のヒアリングを行い,原告からは5回のヒアリングを行って,ヒアリングシート・メモに起こすという方法で行われました(なお,原告の4,5回目のヒアリングについては,前回と重複することからメモを作成していません。)
      訴訟では,女性職員のヒアリングシートの信用性及び原告に対する女性職員のヒアリングシートの開示義務違反,原告からのヒアリング方法の違法性についても争われましたが,いずれも違法性はないとの結論となり,人事部の事実認定が支持されました。
      セクハラの事実認定をすすめていくにあたって,双方の供述が食い違う場合,ヒアリングを数回行い,ヒアリングメモを作成し,不合理な供述については質問をするなどして,供述の信用性が高い方の供述に基づいて事実を認定することになります。本件においても,お互いの供述が食い違う部分については,相当慎重に事実認定を行っているように見受けられます。
      このように,セクハラの事実を調査し事実認定を行う場合には,訴訟となった場合に事実認定を覆されないよう,慎重に進めていく必要があります。

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