徳永・松崎・斉藤法律事務所

降格が無効とされた事例
(TBCグループ事件・東京地裁平成26年10月15日判決)

2015年04月01日更新

熊谷 善昭 弁護士

  1.  事件の概要
    エステサロンを運営しているT社が,女性社員に対して,コールセンターからお客様相談室への異動を命じ,その際に「主任Ⅲ」だった役職を「主任Ⅰ」に2段階降格させ,職務給の減額(25万500円→17万円)・役職手当の減額(6万円→4万円)が生じたことについて,降格の有効性が問題となった事件です。
  2.  判決の要旨
    東京地裁は,次のように判示して,本件降格が無効であると判断し,職務給・役職手当の減額も無効とであるとして,T社に対して減額分の支払を命じました。

    1.  降格・職務給等の減額の可否
      人事権の行使としての降格のうち,本件のように役職を低下させるにすぎないものについては,使用者は,成績不良や職務適正の欠如などの業務上の必要性があり,権利濫用に当たらない限り,その裁量に基づきこれを行うことができる。
      T社の給与規程には,降格に伴う職務給・役職手当の減額が規定されており,これらの減額はT社の賃金制度において当然に予定されており,女性社員との雇用契約の内容になっている。
    2.  本件降格の有効性
      T社は,①女性社員が所属していたコールセンター長が,人事考課表において,論理性とコミュニケーション能力に問題があるとの評価をしたこと,②女性社員の上司ら人事労務委員会のメンバーが日常的に行っている各部署の所属長からのヒアリングでも評価が特に低かったことから,女性社員には管理職としての資質がないと判断し,本件降格を決定した旨主張する。
      しかしながら,①に関して,人事考課において,論理性とコミュニケーション能力が10点満点中4点または6点の評価がされていることは認められるが,その評価の裏付けとなる具体的な事実についての主張立証がない。
      また,②に関して,人事労務委員会が日常的に行っていたとする各部署の所属長からのヒアリングの結果についての内容も何ら明らかにされておらず,T社において,本件降格を行うべき,女性社員の成績不良や職務適正の欠如などの業務上の必要性があったということはできない。
    3.  結論
      以上より,本件降格は,業務上の必要性があったと認めることはできず,権利を濫用するものとして無効である。
      したがって,本件降格に伴う職務給および役職手当の減額は,その前提を欠くものとして無効であり,女性社員は,T社に対し,減額分の支払いを求めることができる。
  3.  検討
    降格には,本件のように職位・役職を引き下げるものと,職能資格制度上の資格や職能等級制度上の等級を引き下げるものがありますが,このうち前者については,人事権の行使として会社の裁量的判断により可能であるとされています。
    そのため,職位・役職の引下げについては比較的自由に行えるようなイメージを持たれている方も多いのではないかと思いますが,本件のように賃金の大幅な減額を伴う場合には,当然のことながらその有効性についても相応に厳しく判断されることになります。
    本件では,T社は,女性社員の成績不良・職務適正の欠如を示す「具体的な事実」を立証できていないと判断されました。懲戒処分の有効性が問題なるような事案でも同様ですが,「具体的な事実」をいかに積み重ねて主張立証できるかが勝負の分かれ目になりますので,本人の日々の問題行動を記録し,上司による注意・指導を具体化して,人事考課の客観性を向上させる必要性が高いと感じさせる事件だと思います。

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