徳永・松崎・斉藤法律事務所

男性看護師の育休取得を理由とする職能給不昇給等の適法性
(大阪高裁平成26年7月18日判決 医療法人稲門会(いわくら病院事件))

2015年08月03日更新

南川 克博 弁護士

  1.  はじめに
    近頃,「イクメン」という言葉をよく耳にします。育児をする男性の略称で,改正育児介護休業法が施行された2010年頃から一気に浸透しました。しかしながら,このようなブームにもかかわらず,日本男性の育児休暇取得率は2.30%(参考:平成26年度雇用均等基本調査)と,世界的にみても極めて低いのが実情で,国内企業には,男性が育児休業しやすい制度・風土づくりが求められています。
    今回は,男性の育休取得に関する事案を紹介いたします。
  2.  事案の概要
    本件は,医療法人Tが開設する病院で勤務していた男性看護師Aが,平成22年9月4日から同年12月3日まで育児休業を取得したところ,Tは,3ヶ月間の不就労を理由として,平成23年度の職能給を昇給せず,昇格試験を受験させなかったため,Aが,これらの取扱いは違法だとして,昇給・昇格していれば支給された給与等の金額と実際の支給額の差額および慰謝料を損害賠償としてTに請求した事案です。
  3.  判決の要旨
    大阪高裁は,およそ次のように判示して,昇給させなかった点及び昇格試験を受験させなかった点のいずれも違法であるとして,差額および慰謝料を損害として認容しました(下線は筆者によるものです)。

    1.  昇給させなかった点
      職能給を不昇給とするTの育児休業規定は,他の9か月の就労状況にかかわらず職能給を昇給させないものであり,育児休業を私傷病以外の欠勤,休暇,休業の取扱よりも合理的理由なく不利益に取り扱うものであり,人事評価制度の在り方に照らしても合理性を欠くものであるし,育児休業の取得を抑制する働きをするものであるから,育児介護休業法10条の不利益取扱いにあたり,同法の趣旨を実質的に失わせるものであるため公序に反し無効であり,昇給させなかった点は違法である。
    2.  昇格試験を受験させなかった点
      Aが勤務する病院では,評価期間1年のうち勤務期間3ヶ月以上の者を全て人事評価の対象とすると定めており,Aも平成24年度に昇格するための試験を受験する資格を得ていたのであるから,正当な理由なく昇格試験受験の機会を与えなかったTの行為は,不法行為法上違法というべきである。
  4.  検討
    1.  1審との判断の違い
      1審の京都地裁は,昇給させなかった点について違法とはいえないと判断しました。これは,職能給は昇給されないものの本人給は昇給されること,職能給の昇給がされなかったことによるAの不利益は月2800円にとどまることから、育児休業の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものとは認められないと認定したためです。
      これに対して,大阪高裁は,同じ不就労でも遅刻早退,年次有給休暇,労働災害による休業通院等は職能給昇給の欠格要件の3ヶ月に含まれないことを指摘して,育児休業を上記欠勤,休暇,休業に比べて不利益に取り扱っているとしました(判決の要旨下線部)。
      いずれも,法令上の労働者の権利行使を理由とする不利益取扱いについての最高裁判例(最判平成元年12月14日判決(日本シェーリング事件),最判平成5年6月25日判決(沼津交通事件))を引用して,「育児休業取得の権利を抑制し,育児介護休業法が労働者に保障した趣旨を実質的に失わせるものであるか」という基準を採用していますが,不昇給による不利益を重視するか(1審),他の不就労と比較した場合の育児休業取得による不利益を重視するか(2審)で判断が分かれたものと解されます。
    2.  実務上のポイント
      本判決を踏まえ,企業としては,男性従業員が実際被る不利益の程度にかかわらず,不就労期間であることを理由として一律に不利益が生じるといった取扱いをしないよう留意すべきと思われます(育児休業の場合は不就労期間を実際の半分とする,不就労期間は総合判断における考慮要素の一つにとどめるetc)。

本件のようなパタニティーハラスメントの裁判例は珍しく,今後の裁判例の蓄積が注目されます。

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