徳永・松崎・斉藤法律事務所

弁明の機会を付与しない懲戒解雇
(ホンダエンジニアリング事件・宇都宮地裁平成27年6月24日判決)

2016年04月15日更新

熊谷 善昭 弁護士

  1.  事件の概要
    自動車エンジンの製造等を行っている被告会社が,36日間の無断欠勤を続けた原告社員に対して,懲戒解雇を行った事案について,原告社員に対する弁明の機会を付与せずに懲戒解雇を行ったことが違法でないかが問題になった事件です。
  2.  判決の要旨
    宇都宮地裁は,「被告会社の就業規則において弁明の機会を与える旨の規定は置かれておらず,懲戒をするにあたっては労使の代表者で構成する賞罰委員会を開くこととされているところ,このような場合,弁明の機会を付与しないことをもって直ちに懲戒手続が違法ということはできない」として,懲戒解雇が無効であると主張した原告社員の請求を棄却しました。
  3.  弁明の機会の付与の要否
    1.  就業規則・労働協約に定めがある場合
      就業規則・労働協約において,懲戒処分の対象となる従業員に対して弁明の機会を付与しなければならない旨を規定している場合には,それを遵守すべきことは当然であり,弁明の機会を付与せずに懲戒処分を行った場合には,違法・無効であると理解されています(千代田学園事件・東京高裁平成16年6月16日判決など)。
    2.  就業規則・労働協約に定めがない場合
      これに対して,就業規則・労働協約において特に定めがない場合には,弁明の機会が付与されていないことをもって直ちに懲戒処分が無効になるとは考えられていません。
      例えば,日本ヒューレット・パッカード懲戒解雇事件(東京地裁平成17年1月31日判決)では,「確かに,一般論としては,適正手続保障の見地からみて,懲戒処分に際し,被懲戒者に対し弁明の機会を与えることが望ましいが,就業規則に弁明の機会付与の規定がない以上,弁明の機会を付与しなかったことをもって直ちに当該懲戒処分が無効になると解することは困難」と判断しています。
      もっとも,特に懲戒解雇のような重い処分を行う場合について,弁明の機会を付与することを求める裁判例もないわけではありません。
      例えば,ビーアンドブィ事件・東京地裁平成22年7月23日判決は,「本件懲戒解雇は,債権者に対して全く最終的な弁明の機会等を付与することなく断行されており,拙速であるとの非難は免れず,この点において手続的な相当性に欠けており社会通念上相当な懲戒解雇であるということはできない」と判断しました。
      また,大和交通事件・大阪高裁平成11年6月29日判決は,「弁解聴取の機会を与えることにより,処分の基礎となる事実認定に影響を及ぼし,ひいては処分の内容に影響を及ぼす可能性があるときに限り,その機会を与えないでした懲戒処分が違法となる。」と判示しています。
    3.  検討
      実務上,懲戒処分を行う場合において,事実を確定するために対象となる従業員からの事情聴取を行うのが通常であり,事情聴取すら行わないことは極めて稀だと思いますが,事実を確定した後に,処分の理由となる事実・処分の内容を告げた上で弁明の機会を与えることについては,明確には行っていない企業もあるのではないかと思います。
      本裁判例その他多くの裁判例では,就業規則に定めがない場合には,弁明の機会の付与を必要的であるとはしていませんが,上記のビーアンドブィ事件のような裁判例もありますし,また,従業員側の不服のポイントを事前に把握することで,その点を考慮した事実の確定・処分の決定を行うことができ,将来の紛争に備えることもできますので,明確な形で「弁明の機会」を与え,明確な記録を残しておく方が無難である思います。

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