徳永・松崎・斉藤法律事務所

有期契約社員と無期契約社員の労働条件の格差は許されるか!?
(大阪高裁平成28年7月26日判決 ハマキョウレックス事件)

2016年12月26日更新

池田 早織 弁護士

  1.  労契法20条に関する裁判例
    平成24年の労働契約法改正により,有期契約社員と無期契約社員との労働条件の不合理な格差を禁止するルール(労契法20条1)が定められました。このルールを巡って,最近,ハマキョウレックス事件(大阪高裁平成28年7月26日判決)や長澤運輸事件(東京高裁平成28年11月2日判決)といった注目すべき裁判例がでています。
    長澤運輸事件は,定年後再雇用により嘱託社員として勤務していた原告が,正社員との労働条件の格差が労契法20条に違反するとして,正社員に支給される賃金との差額等の支払いを求めた事案です。地裁では,定年後の賃金引下げには合理性がないと判断され,原告の請求が認められたため,衝撃が走りましたが,控訴審では賃金引下げは不合理であるとはいえないとして,原告の請求が棄却されています。
    以下では,もう一つの裁判例であるハマキョウレックス事件について,有期契約社員と無期契約社員の労働条件の格差に関する裁判所の判断をみていきたいと思います。
  2.  ハマキョウレックス事件
    1.  事案の概要
      本件は,一般貨物自動車運送事業等を営むY社との間で,有期労働契約を締結し,配車ドライバーとして勤務していたXがY社に対し,Y社との間で無期労働契約が成立している,仮にそうでないとしても,契約社員の労働条件と正社員の労働条件を比較すると賃金手当等に相違があり,かかる相違は不合理で労契法20条に違反する等として,正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認および正社員との差額賃金,不法行為に基づく損害賠償金の支払い等を求めた事案です。
      なお,Y社では,契約社員のドライバーと正社員のドライバーで職務内容に違いはありませんでしたが,広域移動や人材登用の可能性といった人材活用の仕組みに違いがありました。
    2.  判決の要旨
      原審(大津地裁彦根支部平成27年9月26日判決)は,各種手当のうち,通勤手当についての労働条件の相違のみ労契法20条違反であると認め,差額相当額の支払いを命じました。
      これに対し,控訴審は,以下のように判示して,通勤手当に加え,無事故手当,作業手当,給食手当についても労契法20条違反であるとして,差額相当額の支払いを命じました。
      なお,正社員と同一の権利を有する地位確認請求は,原審,控訴審いずれも棄却しています。

      1.  不合理性の判断要素
        労契法20条の不合理性の判断は,有期契約社員と無期契約社員の間の労働条件の相違について,職務の内容(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度),当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,個々の労働条件ごとに判断されるべきものである。
        不合理性の主張立証責任については,有期契約社員が,相違のある個々の労働条件ごとに,期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎づける具体的事実についての主張立証責任を負う。
      2.  本件における不合理性の判断
        正社員と契約社員との間には,人材活用の仕組みの有無に基づく相違が存するのであるから,労働条件の相違が労契法20条にいう「不合理と認められるもの」に当たるか否かについて判断するに当たっては,同条所定の考慮事情を踏まえて,個々の労働条件ごとに慎重に検討しなければならない。

        1.   無事故手当(正社員が1カ月間無事故で勤務したとき1万円を支給)
          ⇒ 「不合理と認められるもの」に当たる
          (理由)優良ドライバーの育成や安全な輸送による顧客の信頼の獲得といった目的は,正社員のドライバー及び契約社員のドライバーの両者に対して要請されるべき。
        2.  作業手当(特殊業務に携わる正社員に対して月額1万円~2万円の範囲内で支給)
          ⇒ 「不合理と認められるもの」に当たる
          (理由)作業手当が現在は実質上基本給の一部をなしている側面があるとしても,正社員給与規定において,特殊業務に携わる者に対して支給する旨を明示している以上,作業手当を基本給の一部と同視することはできない。
        3.  給食手当(正社員の給食の補助として月額3500円を支給)
          ⇒ 「不合理と認められるもの」に当たる
          (理由)給食手当があくまで給食の補助として支給されるものである以上,契約社員に対して給食手当を支給しないことは「不合理と認められるもの」に当たる。
        4.  住宅手当(21歳以下の正社員に対しては月額5000円,22歳以上の正社員に対しては月額2万円を支給)
          ⇒ 「不合理と認められるもの」に当たらない
          (理由)正社員は,転居を伴う配転(転勤)が予定されており,配転が予定されない契約社員と比べて,住宅コストの増大が見込まれることからすると,正社員に対してのみ住宅手当を支給することが不合理であるということはできない。
        5.  皆勤手当(正社員が全営業日を出勤したときに1万円を支給)
          ⇒ 「不合理と認められるもの」に当たらない
          (理由)契約社員就業規則の規定に鑑みると,契約社員が全営業日に出勤した場合には,基本給である時間給の見直し(増額)が行われることがありうるのであり,現に,Xらの時間給は,1150円から1160円に増額されている。
        6.  通勤手当(正社員に月額5000円(通勤距離に応じて支給),契約社員に月額3000円を支給)
          ⇒ 「不合理と認められるもの」に当たる
          (理由)通勤手当は,Y社に勤務する労働者が通勤のために要した交通費等の全額又は一部を補填する性質のものであり,本来は職務の内容や当該職務の内容及び変更の範囲とは無関係に支給されるものである。
  3.  検討
    本事案では,ドライバーの業務内容に大きな相違はないものの,人材活用の仕組みに相違のある正社員と契約社員で,労働条件の相違が許容されるのかが問題となりました。
    控訴審は,個々の手当について,その目的,性質,就業規則上の位置づけを検討し,不合理性を判断しており,その結果,4つの手当について労契法20条に違反すると判断しました。
    業務内容がほぼ同じであるにもかかわらず,正社員と有期契約社員とで労働条件に差異をもうけている会社は多いように思いますが,差異を設ける理由を個々の労働条件ごとに合理的に説明できるようしておくことが重要です。特に,本事案では,手当の内容や目的について,就業規則の規定から判断していますので,労働条件(各種手当)の定め方について今一度確認しておくことも大切です。
    労契法20条をめぐる訴訟は今後増加することが予想されますので,裁判例の動向に注視しながら対策をご検討いただければと存じます。

1労契法20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない。

一覧へ戻る

ページトップへ戻る