徳永・松崎・斉藤法律事務所

労働関係法令改正の最新トピックス

2017年03月15日更新

労働関係法令の改正について,最近のトピックスをご紹介します。目につくのはマタハラ関連と長時間労働の抑止関連であり,政府の掲げる働き方改革に基づき,少子高齢化対策を念頭においた労働時間短縮による労働者保護の方向性が見て取れます。
事業者としても,この流れに逆らうことはできないと思われます。残業の見直しはもちろん,新しい働き方を取り入れる方向性にも拍車がかかりそうです。

  1.  既施行の法改正
    ◆ マタハラによる離職は会社都合に(平成29年1月1日施行)
    雇用保険法施行規則が改正され,労働者が離職して失業保険給付を受ける際にハローワークに提出する離職票の離職理由について,マタハラ(介護休業に関するものも含む)による退職は「会社都合」となり,特定受給資格者(雇用保険法23条2項2号)として失業認定がなされることになりました。
    具体的には,「事業主が法令に違反し,妊娠中若しくは出産後の労働者又は子の養育若しくは家族の介護を行う労働者を就業させ,若しくはそれらの者の雇用の継続を図るための制度の利用を不当に制限したこと又は妊娠したこと,出産したこと若しくはそれらの制度の利用の申出をし,若しくは利用をしたことを理由として不利益な取扱いをしたこと」を理由として離職した者が,特定受給資格者に追加されました(雇用保険法施行規則36条5号ホ)。
    特定受給資格者とは,解雇等の会社都合により退職を余儀なくされたものを指し,自己都合退職よりも有利な条件で基本手当(失業手当)を受給できるものです。例えば,失業等給付の受給資格は離職以前2年間の間に被保険者期間が12ヶ月以上必要ですが,特定受給資格者に該当すると離職以前1年間の間に被保険者期間が6カ月以上あれば受給資格が得られます。また,所定給付日数が一般の受給者より手厚くなる場合があります。
    併せて,事業主にはマタハラ防止措置が義務付けられており(男女雇用機会均等法11条の2,育児介護休業法25条),マタハラによる離職予防と離職した後の保護が図られています。
  2.  第193回国会(常会)で審議中の法律案
    ◆ 悪質事業者はハローワークで求人不受理(改正法公布から3年以内に施行予定)
    職業安定法の改正により,ハローワークで,一定の労働関係法令違反を繰り返す求人者等の求人を受理しないことが可能となります。現状では新卒求人のみが対象ですが,中途採用やパートについても拡大されます。
    なお,現状の新卒求人においては,一定の労働基準法違反(労働条件明示義務違反など)のほか,過重労働の制限等に関する規定違反,仕事と育児の両立等に関する規定(マタハラも含む)違反の場合が対象となっています。マタハラ防止措置(育児介護休業法25条)を講じなかった場合も不受理事由に含まれています。厚労省の調査で法違反が見つかった場合,是正勧告をなし,それにも従わずに企業名が公表された場合に求人を受理しないという流れになっています。
    ◆ 育児休業が2歳まで再延長可能に(平成29年10月1日施行予定)
    育児休業は原則1歳まで,保育所に入れない場合に1歳6カ月まで延長できますが,育児介護休業法5条等の改正により,延長してもなお保育所に入れない場合等に限り,さらに6カ月(2歳まで)の再延長が可能となります。
    これに伴い,雇用保険法61条の4第1項が改正され,2歳まで再延長した場合に育児休業給付の支給期間が延長されます。
  3. 意見段階
    ◆ 法定休暇付与の早期化
    下記3点について,平成29年1月26日に政府の規制改革推進会議より「法定休暇付与の早期化に関する意見」が公表されています。労基法改正についての意見であり,今後厚労省が検討を行うと思われます。

    1.  入社後半年は法定年次有給休暇が付与されないことについて,勤務開始日から一定日数の年次有給休暇が付与される仕組みとすべきである。
    2.  また,入社後,法定年次有給休暇の付与日数が20日に達するまで,6年半かかる現行の仕組みを可能な限り早く20日に達する仕組みとすべきである。
    3.  労使協定により入社後半年間はこの看護休暇・介護休暇を取得できなくすることができる現行の仕組みを改め,勤務開始日から一定日数の子の看護休暇・介護休暇を取得できる仕組みとすべである。

    ◆ 時間外労働の上限規制の方向性
    平成29年2月14日,政府の働き方改革実現会議において,事務局案として時間外労働の上限規制の方向性が公表されました。現時点での方向性の骨子は次のとおりです。

    1.  36協定でも超えることができない罰則付きの時間外労働の限度を法定する。
    2.  その時間外労働の限度を月45時間,かつ年間360時間として法定する。
    3.  特例として
      1.  臨時的な特別な事情がある場合は労使の合意による労使協定により1年720時間まで(月平均60時間)とする。
      2.  年720時間以内において,一時的に事務量が増加する場合について,最低限,上回ることのできない上限を設ける。
      3.  月45時間を超えて時間外労働をさせる場合は労使協定を義務付ける。

一覧へ戻る

ページトップへ戻る