徳永・松崎・斉藤法律事務所

有期契約社員と無期契約社員の労働条件の格差は許されるか!?‐Part2‐
(東京地裁平成29年3月23日判決 メトロコマース事件)

2017年12月04日更新

池田 早織 弁護士

  1. 労契法20条をめぐる裁判例
     前々回の労働法の部屋で,有期契約社員と正社員の賃金格差が問題となったハマキョウレックス事件(大阪高裁平成28年7月26日判決)をご紹介しました。この裁判例は,有期契約の配車ドライバーとして勤務していた原告が,同じ配車ドライバーとして勤務する正社員と労働条件が異なるのは不合理で労契法20条 に違反するとして正社員との差額賃金の支払い等を求めた事案で,無事故手当,作業手当,給食手当,通勤手当について有期契約社員に支給しないことが不合理とされる一方で,住居手当や皆勤手当等については不合理と認められないとされました。
     その後,新たに,有期契約社員と正社員とで,本給・賞与,各種手当,退職金及び褒賞の金額の差異が問題となった裁判例が出ましたのでご紹介します。
  2. メトロコマース事件
    1. 事案の概要
       本件は,Y社(㈱メトロコマース)の有期契約社員として,東京メトロ駅構内の売店で販売業務に従事してきたXらが,Y社に対し,無期契約の従業員がXらと同一内容の業務に従事しているにもかかわらず賃金等の労働条件に差異があることが労契法20条に違反しかつ公序良俗に反するとして,差額賃金(本給・賞与,各種手当,退職金及び褒賞の各差額)相当額等の支払いを求めた事案です。
    2. 判決の要旨
       裁判所は,本給・賞与,資格手当,住宅手当,退職金,永年勤続褒賞については労契法20条に違反する不合理な労働条件とはいえないとし,早出残業手当の割増率のみ不合理な労働条件にあたるとして,差額相当額の支払いを命じました。

      1. 正社員と有期契約社員の職務内容等の相違について
         Y社の正社員と有期契約社員との間には,従事する業務の内容及びその業務に伴う責任の程度に大きな相違があり,職務の内容及び配置の変更の範囲についても明らかな相違がある。
         なお,正社員と有期契約社員の労働条件の相違を検討する上で,Xらが売店業務に専従する正社員のみを比較の対象としたことについては,Y社の正社員の大半は多様な業務に従事しており,売店業務に専従している正社員は例外的と考えられる上,売店業務に専従している正社員とそれ以外の正社員とで適用される就業規則に違いがないことを踏まえると,広く正社員一般の労働条件を比較の対象とするのが相当であるとした。
      2. 個々の労働条件の相違について
        1. 本給・資格手当(有期契約社員は1年目時給1020円,毎年10円ずつ昇給,資格手当なし)
          ⇒ 不合理とは認められない
          (主な理由)正社員には長期雇用を前提とした年功的な賃金制度を設け,短期雇用を前提とする有期契約社員にはこれと異なる賃金体系を設けるという制度設計をすることには,企業の人事施策上の判断として一定の合理性が認められる。また,有期契約社員には昇給が存在することや正社員にはない早番手当,皆勤手当が支給されること等を踏まえると不合理なものであるとは認められない。
        2. 住宅手当(有期契約社員には住宅手当なし)
          ⇒ 不合理とは認められない
          (主な理由)正社員は転居を伴う可能性のある配置転換や出向が予定され,配置転換や出向が予定されない有期契約社員と比べて,住宅コストの増大が見込まれることに照らすと,正社員に対してのみ住宅手当を支給することが不合理であるということはできない。
        3. 賞与(正社員は夏冬にそれぞれ本給2か月分+一定額(17万円又は17万6000円)・有期契約社員は夏冬に各12万円)
          ⇒ 不合理とは認められない
          (主な理由)賞与が労働の対価としての性格のみならず,功労報償的な性格や将来の労働への意欲向上としての意味合いも持つこと,長期雇用を前提とする正社員に対し賞与の支給を手厚くすることにより有為な人材の獲得・定着を図るという人事施策上の目的にも一応の合理性が認められること等を勘案すると不合理なものであるとまでは認められない。
        4. 退職金(有期契約社員には退職金なし)
          ⇒ 不合理とは認められない
          (主な理由)一般に退職金が賃金の後払い的性格のみならず功労報償的性格を有することに照らすと,企業が長期雇用を前提とした正社員に対する福利厚生を手厚くし,有為な人材の獲得・定着を図るという人事施策上の目的も一応の合理性を有する。また,有期契約社員には正社員等への登用制度が設けられ,登用実績もあることなどを考慮すると不合理とまでは認められない。
        5. 永年勤続褒賞(正社員には10年毎に表彰状+3万円,有期契約社員にはなし)
          ⇒ 不合理とは認められない
          (主な理由)永年勤続褒賞は,永年勤続し会社に貢献した従業員に対しY社が特別に褒賞を支給するというものであるから,長期雇用を前提とする正社員のみを支給対象とし,短期雇用が想定される有期契約社員には褒賞を支給しないという扱いをすることは不合理とまではいえない。
        6. 早出残業手当(正社員には2時間まで2割7分増,2時間超3割5分増,有期契約社員には2割5分増)
          ⇒ 不合理と認められる
          (主な理由)労基法37条の割増賃金の趣旨に照らせば,従業員の時間外労働に対しては,使用者は,それが正社員であるか有期契約社員であるかを問わず,等しく割増賃金を支払うのが相当であって,このことは使用者が法定の割増率を上回る割増賃金を支払う場合にも妥当する。割増賃金の性質を有する早出残業手当における相違は,労働契約の期間の定めの有無のみを理由とする相違であって,不合理なものというべきである。
  3. 今後の実務対応
     本事案では,有期契約社員と正社員の労働条件を比較するのにXと同じ売店業務に専従する正社員のみならず広くY社の正社員一般を比較の対象とした上で,職務の内容及び人材活用の仕組みに相違のある正社員と有期契約社員で,労働条件の相違がどこまで許容されるのかが問題となり,結論として,残業手当の割増率の相違のみ不合理なものとされました。
    有期契約社員と正社員の労働条件の格差の問題については,昨年12月に,同一労働同一賃金の実現に向けて政府が策定した「同一労働同一賃金ガイドライン案」が公表され,今後このガイドライン案を踏まえて法整備が進められることになります。
     現状の対応としては,各社における有期契約社員と正社員の労働条件や待遇差を確認し,差異を設ける理由を個々の労働条件ごとに整理しておくことが重要です。今後,裁判例や法令の動向に注視しながら,必要に応じて労働条件や処遇を見直して頂ければと思います。

※ 労契法20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が,期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては,当該労働条件の相違は,労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。),当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して,不合理と認められるものであってはならない。

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