徳永・松崎・斉藤法律事務所

(続)パワハラ防止法の動向と事業主の対応について

2019年12月05日更新

家永 由佳里 弁護士

  1.  改正労働政策総合推進法(パワハラ防止法)の施行日
     施行日は2020年6月1日となることがほぼ固まりました(中小企業については2022年4月1日)。
  2.  事業主が対応するべきこと
    1.  対応義務のあるもの
       パワハラ防止法30条の2に基づき,企業には「相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置」を行う義務があります。
       相談体制はすでに整備している企業も多いと思いますが,まだ対応していない場合は施行日までに整備しておく必要があります。
      また,「その他雇用管理上必要な措置」として,すでに整備している相談体制は運用も含めて適切か,チェックする必要があります。
    2.  努力義務のあるもの(同法30条の3)
       パワハラに関する研修の実施やその他必要な配慮をするほか,国の講ずる広報活動,啓発活動等に協力することについては,努力義務が課されています。
       したがって,事業主としては,少なくとも従業員に対しパワハラに関する研修を行うことを検討することになります。
  3.  指針素案について
     同法30条の2第3項により,事業主が講ずべき措置等に関して,その適切かつ有効な実施を図るために国が必要な指針を定めることとなっており,2019年10月21日の労働政策審議会において素案が公表されました。素案段階ですが,ポイントなる点を挙げます。

    1.  「労働者」について
       労働者には派遣労働者も含まれ,派遣先においても本法に基づく配慮や措置を講ずることが必要であり,不利益取扱いの禁止の対象となることが確認されています。
    2.  「優越的な関係を背景とした」言動について
       当該事業主の業務を遂行するに当たって,当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶ですることができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指すこととされ,次のとおり例示されています。
      例・職務上の地位が上位の者による言動
      ・同僚又は部下による言動で,当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており,当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
      ・同僚又は部下からの集団による行為で,これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
      これらの例示からすると,上司と部下という関係にとどまらず,同僚や部下であっても優越性があると評価されることもあり得ます。
    3.  事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発義務について
       事業主は,職場におけるパワーハラスメントをしてはならないとの方針を明確化し,管理監督者を含む労働者に対して周知・啓発しなければなりません。
       また,職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行った者については厳正に対処する旨の方針と対象の内容を就業規則等の文書に規定して周知・啓発をしなければならないとされています。
      このようなパワハラ防止に関する規程はすでに整備している企業が多いと思いますが,いま一度周知を図る必要があります。
    4.  相談(苦情を含む)に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備について
       相談窓口をあらかじめ定め,労働者に周知することに加え,相談窓口の担当者が,相談に対し,その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることを求めています。
       具体的には,相談窓口においては,被害を受けた労働者が委縮するなどして相談を躊躇する例もあること等その他心身の状況にも配慮しつつ,職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけでなく,その発生のおそれがある場合や,職場におけるパワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても,広く相談に対応し,適切な対応を行うようにすることを求める内容となっています。
       窓口を作っただけでは足りず,その運用について,人事部との連携や窓口担当者のマニュアルの整備等の検討が必要です。
    5.  事後の迅速かつ適切な対応について
       パワハラの事実が確認できた場合に,被害者に対する配慮のための措置を適切に行う必要があります。被害者への配慮として,被害者と行為者の関係改善に向けての援助,引き離すための配置転換,行為者の謝罪,被害者の労働条件上の不利益の回復,管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずることが例示されています。
       その他,相談者や行為者等の情報についてプライバシー保護のための必要な措置を講ずること,その旨を労働者に対して周知すること,パワハラの相談をしたことや雇用管理上講ずべき措置に協力したこと,都道府県労働局に対して相談等を行ったことを理由として解雇その他の不利益な取り扱いをされない旨を定め,労働者に周知・啓発すること等が求められています。
       パワハラの事実が確認できた場合の対応はおそらく問題なくなされていると思いますが,プライバシー保護への取り組みが適切か,必要な規程を作成して周知しているかなど,対応状況を確認しておく必要があります。

一覧へ戻る

ページトップへ戻る