徳永・松崎・斉藤法律事務所

セクハラに対する会社の対応につき債務不履行責任を否定した事例
(N商会事件・東京地裁平成31年4月19日判決)

2020年04月04日更新

熊谷 善昭 弁護士

  1.  事案の概要
     原告女性が,他の従業員(加害者)からセクハラを受けたとして,N商会に対し,加害者の配置転換・懲戒解雇等を求めた。N商会は加害者の事情聴取等を行って厳重注意を行ったが,配置転換や懲戒処分は行わなかった。
     原告女性は,N商会が事実関係の調査義務,安全配慮義務ないし職場環境配慮義務を怠ったなどとして,損害金904万円余の賠償を求めて提訴した。
  2.  結論
     原告女性の請求棄却(N商会の義務違反なし)
  3.  判決の要旨
    1.  セクハラ行為の態様について
       加害者が原告女性に好意を抱き,食事に誘って交際の申込みをしたが,原告女性は回答しなかった。その後も時折メールを送信していたが,上司から注意された後は止め,「ストーカー行為」に該当するものとは認められない。
    2.  調査義務違反について
       N商会は原告女性の申し出を受けて,間もなく加害者に事実確認をするとともに,問題の送信メールについても任意に示させて内容を確認しているから,事案に応じた事実確認を施していると評価でき,調査義務違反があったとは認め難い。
       原告女性は,従業員全員から聴取を行うべきであったなどと主張しているが,プライバシーに関わる相談事象について,他の従業員に対し事実確認を行うことが必須ということもできない。
    3.  懲戒処分について
       加害者の行為は⑴の範囲にとどまるところ,N商会は加害者に対して注意指導して,加害者がメール送信を止めたことを確認しており,原告女性も加害者の謝罪を了としていたという事実関係からすれば,N商会が加害者に対して厳重に注意するにとどめ,懲戒処分を行うことまではしないと判断したとしても不合理ではなく,懲戒処分を行うべき具体的な注意義務を負っていたとまでは認め難い。
    4.  配置転換について
       N商会の注意指導以降は,加害者はメール送信等によって原告女性に不快な情を抱かせることはなかったこと,N商会には本社建物しか事業所が存せず配転をすることが困難であったこと,そもそも加害者と原告女性の接触の機会は伝票の受渡し程度であり,N商会は原告女性の意向も踏まえて伝票の受渡し方法を変更し,担当者交代も容認していたことからすれば,N商会において合理的範囲における措置を都度とっていたと認めることができ,原告女性が指摘するような注意義務違反があったとは認め難い。
  4.  検討
    1.  セクハラ事案に関する使用者の責任
       ①加害従業員を雇用する使用者として,使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償責任を負うことがあるほか,②「職場環境配慮義務」違反や「安全配慮義務」違反として,債務不履行責任(民法415条)ないし不法行為責任(民法709条)に基づく損害賠償責任を負うことがあります。
    2.  セクハラ事案への使用者の対応
       男女雇用機会均等法11条1項では,職場におけるセクハラ防止のため雇用管理上必要な措置を講ずることが義務づけられており,これに基づく「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」において,①事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること,②速やかに被害者に対する配慮のための措置を適切に行うこと,③行為者に対する措置を適切に行うこと等が求められています。
       セクハラ事案においては,時に加害者に対して厳罰を科すよう被害者から強く要求されることもありますが,どこまで対応すべきかは,セクハラ行為の悪質性などを踏まえて判断する必要があります。
      本件の原告女性は,上記「指針」を根拠として,N商会に対して加害者に対する懲戒処分や配置転換を求めていましたが,裁判所は,N商会の対応について事案に応じた適切な対応であったと評価したものであり,実務上参考になると思います。

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