徳永・松崎・斉藤法律事務所

代表取締役の解職に関する裁判例のご紹介 (富山地裁高岡支部平成31年4月17日判決)

2019年12月05日更新

恩穗井 達也 弁護士

  1.  はじめに
     最近,突然の社長交代がニュースになるケースもあり,役員人事のあり方についても注目が集まっているところと思います。そこで,今回は,近時出された代表取締役の解職にかかる紛争に関する裁判例をご紹介します。
  2.  アルビス代表取締役地位確認請求事件(富山地裁高岡支部判決・資料版商事法務423号175頁)
    1.  事案の概要
       本件は,東証1部に上場されている食料品製造等を目的とする被告会社の代表取締役であった原告が,主位的に,取締役会で代表取締役の職を解かれた決議の無効を主張して自らがいまだ代表取締役の地位にあること等の確認を求めるとともに,予備的に,当該決議が有効としても,原告の解職は任期満了前の不利な時期になされたものであり任期満了までの代表取締役としての報酬額相当の損害を被ったとして,委任契約の解除に関する民法651条2項の規定に基づき,損害賠償(の一部)を求めた事案です。
    2.  取締役会決議の経緯等
       原告は平成17年6月から長期にわたり被告会社の代表取締役を務めていたところ,平成30年5月11日に開催された取締役会において,ひとりの取締役から代表取締役社長解職の動議が提出されました。当該動議について特別利害関係人である原告を除く取締役6名で採決したところ,4名の取締役がこれに賛成し,過半数の賛成により動議が承認されました(その後,他の取締役を新代表取締役に選定する旨の動議が出され,こちらも過半数の賛成により承認されています)。
    3.  争点及び争点に関する判断
       本件の主な争点は,主位的請求について解職決議の有効性(①)と予備的請求について原告の損害賠償請求権の有無(②)です。
       本判決は,争点①について,「一般に代表取締役選定・解職を含む取締役会決議は,経営判断に属する事項であり,当該会社の取締役会の裁量に委ねられる事項であるから,手続に重大な瑕疵がなく,それが裁量権の逸脱・濫用と認められない限りは,有効とみるのが相当である」として会社の裁量を広く認めた上で,本件では,手続に重大な瑕疵は認められず,解職理由(世代交代を実現するのが今後の企業運営に資する等が理由とされていました。)についても,その当否はともかく,その理由は経営判断に関わるものであり,裁量権を逸脱するものとは認められないとして,原告の主位的請求を棄却しました。この点,原告は,真の解職理由は原告と特定の業務提携先・他の取締役の関係が悪化していたことによる私怨である旨主張しましたが,本判決は「上記主張に明確な根拠はなく,私怨であるとの点は憶測の域をでるものではない」としました。
       また本判決は,争点②について,「代表取締役の解職の手続に,委任解除の規定である民法651条が適用されるかは一つの問題であるが,仮にその適用があるとしても,同条2項における「相手方に不利な時期」とは,委任に係る事務処理自体との関連において不利な時期を言うものと解され,また,同項にいう損害とは,解除の時期の不当なことによる損害をいうものと解される」とした上で,有償の委任契約において,解除により将来分の報酬請求権が生じないことは当然であるとして,原告に民法651条2項に基づく損害賠償請求権は認められないとして,原告の予備的請求を棄却しました。
    4.  本判決の検討
      1.  取締役会決議無効確認請求について
         取締役会決議の無効確認請求について,法律上格別の規定はありません。しかしながら,裁判例上は,紛争解決に適する等の確認の利益がある場合はこの類型の訴訟を許容するのが一般的といえます。
         また,どのような事由があれば無効となるかについても解釈に委ねられていますが,一般に,手続上の瑕疵(軽微かつ決議結果に影響を及ぼさないものは除く),決議内容の瑕疵(法令違反,定款違反,株主総会決議違反)が無効事由になると解されています。本判決は,代表取締役の選定・解職という場面において「手続に重大な瑕疵がなく,それが裁量権の逸脱・濫用と認められない限りは,有効」としており,一般的な理解に反しない考え方といえます(あるいは無効事由をやや狭く解するようにも思えます)。
      2.  代表取締役の解職における損害賠償責任について
         役員の解任の場合は会社法339条において,「いつでも,株主総会の決議によって解任することができる」(同条1項)とされる一方で,「解任された者は,その解任について正当な理由がある場合を除き,株式会社に対し,解任によって生じた損害の賠償を請求することができる」(同条2項)とされています(この場合の「損害」は任期満了までの報酬相当額とされています。)。
         この点,代表取締役が解職された場合も,代表ではなくなったことにより報酬額が下がるのが通常であるところ,この場合に会社法339条2項の類推適用があるかについては,争いがあるところです。ただし,この類推適用を否定する見解を採ったとしても,委任解除にかかる民法651条2項(不利な時期に解除した場合は,やむを得ない場合でない限り,相手方に生じた損害を賠償しなければならない)に基づく損害賠償請求は可能とされており,本件の原告はこの見解に拠って予備的請求を行ったものと推測されます(そのため本判決では,そもそも代表取締役の解職における会社法339条2項の類推適用については判断されていません。)。
         しかしながら,民法651条2項における損害は「委任が解除されたこと自体から生ずる損害ではなく,解除が不利益な時期であったことから生ずる損害に限る」と解するのが一般的であり,本判決も,かかる解釈に従い,原告の予備的請求を斥けました。
      3.  実務上の留意点
         代表取締役を解職することなどは日常的に生じることではなく,各社にノウハウがあるようなものでもないように思います。そのため,万が一,何らかの検討が必要な場合の参考となるように,紛争となった事例として本判決を紹介した次第です。

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