徳永・松崎・斉藤法律事務所

会社法の部屋
招集通知発送後の総会会場および開催時刻の変更

2020年08月08日更新

池田 早織 弁護士

  1.  はじめに
     本年は,新型コロナウイルス感染症のまん延による緊急事態宣言を受け,招集通知発送後に予定していた株主総会の会場が使用できなくなり,会場や開催時刻の変更を余儀なくされた会社が相当数ありました。
     招集通知発送後の会場等の変更については,会社法上規定がなく,裁判例も乏しいため,手続に苦慮された会社も多かったことと思います。
     そのような中,招集通知発送後に,取締役会決議を経ずに,総会会場および時刻を変更した会社に対し,総会の開催禁止を求める仮処分が提起された事案がありますので,ご紹介します。
  2.  積水ハウス定時株主総会開催禁止等の仮処分申立事件(大阪地裁令和2年4月22日決定/資料版商事法務No.435)
    1.  事案の概要
       積水ハウス(株)は,令和2年4月23日午前10時に某ホテルの大宴会場にて第69回定時株主総会を開催する旨の招集通知を4月6日に株主に対し発送した。翌7日,新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が出され,同月13日,大阪府知事がホテル等に対し休止を要請したため,ホテル大宴会場での定時総会開催は事実上困難となった。そこで,同社の代表取締役は,4月15日,取締役会決議を経ずに,定時総会の場所を本社入居ビルの35階フロアに変更し,開催時刻を午前10時30分に繰り下げる旨を同社のウェブサイトで公表した。
       これに対し,同社の株主兼取締役が,かかる変更は招集手続に関する法令に違反する行為であり,新型コロナウイルスがまん延する中,定時総会開催を強行することは取締役の善管注意義務に違反するとして,定時総会の開催禁止を求める仮処分(会社法360条)を申し立てた。
    2.  裁判所の判断
       裁判所は以下の①から③のいずれについても債権者である株主の主張を認めず,申立てを却下した。
      ① 招集通知後に株主総会の日時及び場所を変更したこと自体の違法性
       会社法上,株主総会を招集するに当たり,取締役会で定めた会社法298条1項所定の事項を変更しようとする場合の要件や手続につき,明文の規定はない。本件定時総会招集決議を執行すべき代表取締役の権限の範囲は,本件定時総会招集決定の合理的解釈によって画策されるものというべきである。
       本件において,招集通知の最初の頁には,新型コロナウイルス感染症への対応として,「本定時株主総会運営に変更が生じた場合には,以下のウェブサイトに掲載いたしますので,ご出席の際にはご確認ください。」という一文が明記され,参照先のURLが記載されていたのであるから,本件定時総会招集決定は,新型コロナウイルス感染症の動向いかんによっては定時総会の運営に変更があり得ることを前提としていたことが明らかであり,変更をおよそ許容しない趣旨と解することはできない。 →違法性を否定
      ② 取締役会決議によらないで株主総会の日時及び場所を変更したことの違法性
       代表取締役限りで株主総会の日時及び場所を変更することの可否等も,本件定時総会招集決議の解釈により決せられることとなる。もとより,株主の議決権行使が妨げられることとなるような恣意的な変更を許容することはできないが,少なくとも本件のように,当初予定していたホテル大宴会場の使用が事実上不可能となったことに伴い,本件定時総会の開始時刻及び場所を変更することは,本件定時総会招集決議の執行の域を逸脱するとまではいえない。 →違法性を否定
      ③ 本件変更を前提とした本件定時総会開催の善管注意義務違反について
      令和2年4月2日に経産省及び法務省から公表された「株主総会運営に係るQ&A」では,株主総会を開催すること自体は黙示的に肯定されており,他社の株主総会においてもその開催が一律かつ当然に見送られている状況にはない現状を踏まえる限り,緊急事態宣言が,株主総会の開催自体を決定的に左右する事情であると一般的に評価されているということはできない。→善管注意義務違反を否定
    3.  検討
       招集通知発送後の総会会場等の変更手続については,一般に,招集手続に準じ,取締役会で会場等の変更を決議して,株主に対し会場等の変更を書面で通知すべきとされています。本決定では,取締役会の決議を経ることなく開催場所,時間を変更できるかが問題となりました。
       本決定では,招集通知に「本件定時総会運営に変更が生じた場合には,以下のウェブサイトに掲載いたしますので,ご出席の際にはご確認ください。」という一文が明記されていたことが決め手となり,本件定時総会招集決議の解釈として,新型コロナウイルス感染症の動向いかんによっては定時総会の運営に変更があり得ることを前提としていたとして,適法とされました。
       本年のように,招集通知発送後の総会運営に変更が生じることが想定される場合には,取締役会の決議を経る時間的余裕がない場合等に備え,招集通知に予め変更があり得る旨の記載をしておくことが大切であるといえます。

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