徳永・松崎・斉藤法律事務所

ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件最高裁判決を受けて

2018年08月10日更新

家永 由佳里 弁護士

  1.  現状
    期間の定めのない労働契約(無期雇用契約)の労働者と有期労働契約の労働者との間の不合理な相違を禁止する労契法20条に関し,ハマキョウレックス事件(同一の業務を行う契約社員と正社員の事案)と長澤運輸事件(定年後も定年前と同一の業務を行う定年後再雇用の契約社員と正社員の事案)について,平成30年6月1日,ついに最高裁判決が言い渡されました。最高裁の判断により,この問題についてどのように対応すべきか,最終的な方向性が示されたといえます。
    また,国会では,6月29日に働き方改革関連法が成立し,来年4月から順次施行される見通しです。労働契約法20条は削除され,パートタイム・有期雇用労働法8条に移ります(施行は2020年4月予定)。各判例は,同法8条の問題として,先例としての意義を有することになります。これに合わせ,同一労働同一賃金ガイドライン案についても,改正法施行日にあわせて正式なガイドラインが施行される予定です。
  2.  事案と判示の要点
    1.  ハマキョウレックス事件
      同事件は,①業務内容が同一(運送業務)で,②責任の程度(職務内容)も同一であり,③配置の変更の範囲については正社員と相違がある(正社員には全国転勤があり得るが有期契約社員には転勤がない)有期契約社員について,個別の労働条件(賃金を構成する各種手当)について当該相違の不合理性を判断したものです。
      最高裁は,正社員には支給されるが有期契約社員には支給されていない各種手当(無事故手当,作業手当,給食手当,通期手当,皆勤手当,住宅手当等)について,各手当の趣旨を認定し,その趣旨が正社員のみならず有期雇用社員にも当てはまるかを検討し,当てはまる場合,当該相違は不合理であるという判断をしています。
      この事案で唯一不合理ではないとされた住宅手当については,「従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものと解されるところ,契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し,正社員については,転居を伴う配転が予定されているため,契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る」と判断し,上記③配置の変更の範囲の違いを手当の趣旨ないし不合理性判断における検討材料としています。しかしながら,その他の各種手当の不合理性判断おいては③配置の変更の違いには触れられておらず,配置の変更の違いが賃金において考慮されるのは,住宅手当等,配置変更による負担増を直接補助する趣旨の手当などに限定されるともいえます。
    2.  長澤運輸事件
      同事件は,①業務内容(運送業務),②責任の程度(職務内容),③配置の変更の範囲についていずれも正社員と同一であるが,④定年退職後再雇用という特殊事情のある有期雇用契約の嘱託社員について,個別の労働条件(賃金を構成する各種手当)について当該相違の不合理性を判断したものです。
      最高裁は,ハマキョウレックス事件と同様,正社員には支給されるが嘱託社員には支給されていない各種手当(能率給及び職務給,精勤手当,住宅手当,家族手当,役付手当,超勤手当,賞与)について,各手当の趣旨を認定し,その趣旨が正社員のみならず有期嘱託社員にも当てはまるかを検討し,当てはまる場合,当該相違は不合理であるという判断をしています。
      本件では,④定年後再雇用であるという事情を「その他の事情」として考慮すべきかが争われましたが,最高裁は,その他の事情として考慮される事情にあたると解するのが相当としました。
      そして,「労務の成果に対する賃金」についてはまとめて判断し,正社員は「基本給+能率給+職務給」であるところ,嘱託社員は「基本賃金+歩合給」が支給されているが,嘱託社員の基本賃金は定年前の基本給よりも多いこと,かわりに歩合給が支給されていること,その歩合給も正社員の能率給の計数の2~3倍であること,団交により歩合給の係数が引き上げられたこと,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができ,支給開始までの間2万円の調整給を支給すること等を認定して,不合理ではないと判断しています。
      また,住宅手当や家族手当について,その趣旨は生活保障にあり,幅広い年齢の正社員には支給し,年金受給が予定され受給までは調整給も支給される嘱託社員には支給しなくても不合理ではないと判断しています。さらに,賞与について,賞与の趣旨は多様であるが,嘱託社員は退職金の支給を受けているほか,年金受給や調整給支給,賃金は定年前の79%程度であることから不合理ではないと判断しています。
      一方,精勤手当は,手当の趣旨が有期雇用契約社員にもあてはまる「皆勤奨励」にあるので,不支給は不合理としています
      この判示からは,「その他の事情」として,定年後再雇用であることだけではなく,定年後再雇用であることに関連する諸事情が非常に重要であるといえます。
  3.  企業の対応
    有期雇用契約社員を雇用している企業は,無期雇用契約社員と事実上異なる条件となっている労働条件やその他の関連する条件(以下「労働条件等」といいます)について洗い出し,違いのある労働条件等が就業規則上どのような規定となっているかをまず確認する必要があります。違いがある場合,無期契約社員と有期契約社員の業務内容の同一性,職務内容(責任)や配置の変更の範囲,その他の事情にあたりそうな事情等を検討します。そして,違いのある労働条件等の趣旨や性質について検討し,その趣旨が業務内容の違いや職務内容の違い,配置変更の範囲の違い等により説明ができるかどうか検討する必要があります。
    また,定年後再雇用の場合,「労務の成果に対する賃金」等について,賃金の相違の程度や代償措置等の条件を細かく分析し,不合理ではないか検討していくことになると思われます。
    判断にあたっては,企業毎に様々な事情を背景に検討する必要があると思われますので,ご相談ください。

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