徳永・松崎・斉藤法律事務所

法廷百景
労働審判

2014年04月25日更新

永原 豪 弁護士

  1.  労働審判とは
    労働審判とは,企業と労働者との間に生じた労働関係に関する紛争(個別労働紛争)を,裁判所において,原則3回以内の期日で,迅速,適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度のことです。労働審判では,裁判官1名(労働審判官)と労使双方からの労働審判員2名で組織される労働審判委員会において審理がなされ,調停がまとまらなければ審判が下されることになります。
    労働審判では,訴訟とは異なり,原則3回以内の期日で終了するため,第1回期日おいてほぼ実質的審理が終了します。このため,申立書が送達後,第1回期日までに集中して準備をすることが必要となります。
  2.  時間外労働手当の支払いを求める労働審判事件
    労働審判制度が開始された直後,ある企業(A社といいます)から時間外労働手当の支払いを求める労働審判についての依頼を頂きました。A社は裁判所からの書類を受け取るのが初めてであったこともあり,当事務所が受任したのは裁判所が指定した第1回期日まですでに2週間を切っているような状況でした。
  3.  第1回期日までの準備
    通常の民事訴訟であれば,相手方の主張に対する当方の答弁だけを簡潔に記載した形式的な答弁書を提出し,次回期日までにじっくりと相手方の主張に対する反論をするということが可能なのですが,労働審判ではそうはいきません。
    初めての労働審判事件ということもあり,A社の担当者と短期間の間に複数回の綿密な打ち合わせを実施し,申立書の記載事実の事実確認をするとともに,詳細な反論を作成することになりました。また,労働審判手続きでは,労働審判官や労働審判員から企業の担当者(もちろん労働者に対してもですが)に対して質問がなされることになるため,訴訟における証人テスト(尋問における留意事項や相手方からの反対尋問に対する回答方法についてのトレーニングのことです)も必要となり,書面作成作業と合わせて,A社担当者と争点に対する当方方針の確認を実施して期日に備えました。
  4.  労働審判期日及びその結果
    このような準備を経て,いよいよ第1回期日を迎えることになりました。福岡地方裁判所における労働審判手続きでは,当事者双方に対して5分程度の時間が与えられ,自らの主張に関するプレゼンテーションをすることが求められます(もっとも,全国的な取り扱いではありません)。申立人に続いて,当方が,A社側のプレゼンテーションを実施しました。プレゼンテーションでは申立人の主張する争点に対して,個別に簡潔かつ説得的な主張を行いました(と自分では思っています)。それから労働審判員らから申立人及びA社担当者に対する質問を経て,労働審判委員会と当事者との個別の協議に移りました。
    そのとき労働審判官から「ところでA社はいくら支払うつもりなのですか?」という衝撃的な発言がありました。A社の担当者は,A社側の主張を踏まえて,裁判官を含めた労働審判委員会からの判断が示されると予想していた(私の方もそのような見通しを説明していました)こともあり,争点についての判断の前にまず支払可能金額を確認されたことに強い違和感を抱きました。確かに,労働審判手続きは調停の一種ですから当事者双方が譲歩することが重要であることは理解できますが,理由を問わずいくら払うのかという質問に対し,代理人である私も苦笑するより他ありませんでした。
    結果的に,A社の労働審判事件は,調停が成立せず,労働審判委員会の労働審判に対して異議の申し立てがなされ,通常訴訟に移行して解決するという結末をたどりました。このように紛争が長期化した一因は,労働審判における審判官からの配慮に欠ける発言による当事者の違和感にあることは想像に難くありません。
  5.  まとめ
    労働審判事件は,訴訟とは異なり厳密な立証が不要である上,早期に調停によって解決する可能性が高いこともあり,近年申立事件数が増加しており,福岡でも同様の傾向を示しております。企業においては,いつ労働審判申立てがなされても不思議ではないと言っても過言ではありません。
    昨今労働関係における法律改正が相次いでおり,労務管理において,労使紛争が生じないような適切な対応をするとともに,労働審判が申し立てられた場合には速やかに対応する体制だけは構築しておく必要があると思います。

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